馬の靴屋さん!?
「装蹄師」ってどんな仕事?-前編-
- トリビア
2016.12.06

皆さんは馬の蹄(ひづめ)を守る蹄鉄(ていてつ)をご存知ですか?蹄鉄とは蹄の下に取りつけ、摩滅を防ぐための鉄の金具のことです。
その馬にとっての“靴”ともいえる蹄鉄を作ったり、馬の蹄に取り付けたりするのが「装蹄師」と呼ばれる職業。いうなれば馬の靴屋さんなのです!装蹄をすることによって競走中のケガを減らしたり、馬の競走能力を引き出したりできるともいわれているんですよ。さて、競走馬たちの“肢(あし)”を支える「装蹄師」とは一体どんな仕事をしているのか?うまびNEWS編集部は現役装蹄師の佐々木さんにインタビューをしてきました!
佐々木 裕(ささき ゆたか)
1995年生まれの21歳。装蹄師になって2年目。
「装蹄教育センター」卒業後、JRA競馬学校に装蹄師として勤務。
2016年の4月からはJRA馬事公苑診療所で働いています
うまび:本日はよろしくお願いします! 競馬ビギナーを代表して、装蹄師というお仕事についてお話をお伺いしたいと思います。
佐々木さん:よろしくお願いします。このインタビューを通して少しでも私たちの仕事について興味をもっていただけるとうれしいです。
■装蹄師って、どんなことをする仕事なの?
うまび:さっそくですが、装蹄師の仕事って具体的にどんなことをするんですか?
佐々木さん:細かい作業などもありますが主に3つの内容に分けられます。削蹄(さくてい・伸びたひづめを削る)、蹄鉄の作製、蹄鉄の装着です。
うまび:蹄鉄はどうやって作るんですか?型のようなものがあるのでしょうか?
佐々木さん:一から作る場合は、鉄桿(てっかん)と呼ばれる鉄の棒を曲げて作製します。鉄桿の長さは蹄のサイズに合わせて決めています。だいたい一個の蹄鉄を作るのに15分くらいかかりますね。
うまび:この文鎮のような鉄の棒から作り上げるんですか!まさに職人ですね。
佐々木さん:ただ、さすがに日々の業務で一から作っていると時間効率が悪いので、普段は機械で作られた既製品の蹄鉄を加熱し、ハンマーで叩いて調整して使っています。
佐々木さん:それぞれの馬の蹄に合ったサイズの蹄鉄を選んで、そこから形状を修整していくんです。鉄桿から作るのは、試験の課題や競技などの場合か、既製品にない特殊な蹄鉄を作る場合ですね。
うまび:いつも一から作っているわけではないんですね。競技というのは、どのようなものになるのでしょうか?
佐々木さん:「全国装蹄競技大会」という大会が年に1度ありまして、競技種目のひとつに造鉄競技というものがあるんです。いかにクオリティの高い蹄鉄を制限時間内に作ることができるかを競うものになります。
うまび:装蹄師たちが互いの技術を競い合う大会ということですね。ちなみに、装蹄の作業は基本的に一人で行うものなのでしょうか?
佐々木さん:一人で作業する場合もあれば、2・3人で作業を行うこともあります。私たちJRAに勤めている装蹄師はちょっと特殊で、僕のような若手でもさまざまな工程に携われるのですが、個人で開業している装蹄師に弟子入りするような場合は、経験によって行う作業が違うんですよ。はじめは雑務や馬の肢についている古い蹄鉄を取り外したりするのが主な仕事ですね。それから後肢の装蹄作業に携われるようになり、親方に認めてもらえてようやく前肢の装蹄作業を行うことができます。
うまび:ということは、前肢の装蹄のほうが難しいということでしょうか。何年もかけて少しずつ工程を任されるのは料理人の修行のようですね!
佐々木さん:そうですね。前肢の方がトラブルが起こりやすいので、ある程度実力がないとやらせてもらえません。ちなみに、装蹄師として独り立ちできるようになるには15年かかるといわれています。
うまび:15年……!?それだけ難しい仕事ということですね。ところで、佐々木さんの1日のスケジュールはどのようなものなんでしょうか?
佐々木さん:朝出勤したら、まずは火をおこすなど装蹄の準備をします。そこから基本的にはひたすら装蹄の作業ですね。装蹄の予定が入っていない時間はスケジュール管理などの事務をしています。
うまび:体力も必要そうですね。装蹄師を目指すようになったきっかけはなんですか?
佐々木さん:高校2年生のときに、宇都宮市にある「JRA競走馬総合研究所」(現在は栃木県下野市)のイベントに行ったんです。そこで行われていた造鉄の実演を見て「すごい!かっこいい!」と思ったことがきっかけですね。
うまび:まさに“一目惚れ”した職業だったというわけですね。以前から「将来は馬に関わる仕事がしたい」と思っていたのでしょうか?
佐々木さん:いえ、その実演を見るまでは全く考えていなかったですね(笑)。その実演を見た後に、同じ敷地内にある「装蹄教育センター」の見学をさせて頂いたんです。その日から装蹄師になろうと決めて、高校3年生のときに装蹄教育センターを受験しました。
まさに「装蹄師」という職業との出会いは運命的なものだったというわけですね。
後編では、どうすれば装蹄師になれるのかを聞いていきたいと思います!